心臓・血管・脳のお悩み
だれでも、年齢を重ねるごとに、昔よりも物覚えが悪くなったり、人の名前を思い出せないなどの物忘れが起こりやすくなります。
これは、脳の生理的な老化によるもので、『忘れていること自体は覚えている』ため、さほど日常生活に支障がでることはありません。
認知症は、さまざまな原因で脳の神経細胞が壊れ、記憶・判断力に障害が出る病気です。
『忘れたことへの自覚がない』ことが老化による物忘れとは大きく異なります。
症状が進行すると、理解力や判断力が乏しくなって、日常生活や社会生活にも支障がでることも多いようです。
西洋医学では、認知機能を増強して、症状の進行を遅らせるアリセプトなどのコリンエステラーゼ阻害薬や、周辺症状の軽減にも期待されている新しい作用機序のメマリーなどがあります。
しかし、現時点では、根本的に治療してもとの状態に戻すことは難しいといわれています。
漢方的では、認知症は、認知障害(物忘れ・情緒不安定・不眠・判断力の低下)としてとらえ、体質や症状を踏まえた上で予め予防することを大事と考えます。
最近では、認知症の行動・心理症状に『抑肝散』が話題になっていますが、認知症のタイプによっても漢方薬を使い分ける必要があります。
認知症には、大きく3つのタイプがあります。
認知症の約半数は、アルツハイマー型認知症といわれています。
アルツハイマー型認知症の原因は、特殊たんぱく(アミロイドβとタウ)の蓄積による脳の萎縮と考えられています。物忘れなど記憶障害のほか、判断力の低下や日付が分からなくなるなどの見当識障害がみられることもあります。
脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などを発症した後、脳の血流が乏しくなり脳細胞がダメージを受けることで発症するといわれています。
脳細胞は、障害を受けた部分と正常な部分があるため、物忘れがあっても判断力や理解力はあるなど、まだら認知症になりやすいようです。感情の起伏が激しくなったり、脳の障害部分によっては体に麻痺などの障害が出ることもあるようです。
レビー小体とは、神経細胞に出来る特殊なたんぱく質です。レビー小体型認知症は、特殊たんぱく(レビー小体)の蓄積による脳の萎縮が原因と考えられています。
アルツハイマー型認知症のような物忘れや、パーキンソン病に似た運動障害などが現れやすいようですが、記憶中枢である側頭葉と情報処理をする後頭葉が萎縮するため、リアルな幻覚や幻視、幻聴が現れることが大きな違いといわれています。
漢方では、主にこれらの原因には、『瘀血(おけつ)』『腎虚(じんきょ)』『脾気虚(ひききょ)』『肝鬱気滞(かんうつきたい)』が大きく影響していると考えます。
老化を止めることはできませんが、これらの原因が改善し、体の状態が整ってくると、認知症の発症を遅らせたり、症状の緩和につながると考えられています。
漢方では、認知症の原因として次のようなことが考えられます。
加齢とともに、血は粘り流れが滞りやすくなります。
また、脳血管性疾患や動脈硬化、高血圧、高脂血症などがある場合も、血の流れが良くない状態といえます。
漢方ではこの状態を『瘀血』といい、脳への血流が妨げられれば、物忘れや記憶力の減退を引き起こすこともあるようです。
特に、脳血管性認知症は、瘀血によって脳の血流量が低下した状態といわれています。
そのため、脳の機能を維持するためには、血の巡りをよくし脳に血の栄養を供給することが必要です。
漢方薬では、血を巡らせ瘀血を取り除く冠元顆粒などの活血化瘀薬や、良質な血を養い健脳を促すものを用います。
老化は誰にでも起こることですが、老化のスピードには個人差があるといわれています。
漢方では、“老化のスピード”=“腎虚の進み方の差”という考え方があります。
『腎虚』とは、生命を維持するためのエネルギー“腎精”が不足した状態で、様々な老化現象をもたらすようです。
漢方的には、脳と腎の関係も深く、認知症も腎虚による症状のひとつと考えられています。
特にアルツハイマー型認知症のように、脳の萎縮が原因とされる記憶障害では、補腎をして腎精を高めることが大切になります。
漢方薬では、腎のはたらきを高める六味地黄丸や参茸補血丸、亀鹿仙など補腎益精のものを用います。
加齢に伴って食欲や体力が落ちたなと感じたら、脳への栄養も不足している可能性があります。漢方では、脾胃(胃腸)は、体のエネルギーとなる気血を生み出す源です。
脾胃のはたらきが低下した『脾気虚』では、食欲や体力の低下だけでなく、脳に栄養が届きにくくなるため、記憶力の低下や、直前の出来事をすぐに忘れてしまうなど、健忘の症状が起こりやすくなるようです。胃腸が弱い、老化で急激に体力が落ちた、慢性疾患や手術歴がある、という方は脾胃を見直すことも重要です。
漢方薬では、脾胃をたてなおす六君子湯や補中益気湯、帰脾湯など健脾益気のものを用います。
過剰なストレスが、活発な脳のはたらきを妨げることもあるようです。
漢方では、ストレスによって気の巡りが滞った状態を『肝鬱気滞』といい、興奮や憂鬱などの精神症状や情緒不安をもたらすと考えられています。
認知症は、情緒や環境の変化の影響を受けやすく、良くなったり悪化したりします。
特に、認知症の行動・心理症状(BPSD)に対して、ストレス発散や気の巡りを整えることで、気分の高ぶりや興奮を抑えることも期待できます。
漢方薬では、気の巡りや乱れを整え精神をリラックスさせる加味逍遥散や柴胡加竜骨牡蠣湯、抑肝散加陳皮半夏、釣藤散など疏肝解鬱のものを用います。
認知症には、記憶障害などの中核症状の他に、周辺症状として精神症状や行動障害があります。幻覚や幻聴、被害妄想や物盗られ妄想、抑うつ、興奮、不眠、攻撃的言動、徘徊など様々な行動・心理症状が現れ、認知症ご本人だけでなく、その介護にあたるご家族への負担も大きいといわれています。
近年、認知症の漢方薬として注目されている抑肝散は、認知症の中でも、周辺症状である行動・心理症状(BPSD)に対して効果が期待できることが臨床研究でも確認されています。
本来は子供の夜泣きやひきつけ、イライラなどの神経の高ぶりなどを抑える目的で用いられてきた漢方薬ですが、神経細胞の興奮を抑えることが分かっているようです。
冠元顆粒の認知症に対する研究も数多くされています。
これまでに、脳血流改善作用や老化の原因である活性酸素・フリーラジカルを除去する作用、脳神経細胞の抑制作用などが薬理研究で分かってきています。特に、認知症の予防や周辺症状に優れているといわれています。
認知症は、日々の行動や心がけ、また早期発見によって予防できる病気です。
最近の研究では、軽度認知障害(MIC)と呼ばれる認知症の一歩手前の段階で発見し、対策すれば認知症への進行を食い止め、予防できる可能性があることも分かってきています。
人と会話をしたり、趣味の時間を持って生き生き過ごすこと、1日1回は笑うことなど、脳によい刺激を与えて、出来るだけ脳を鍛えることを心がけましょう。
また、早歩きや歩幅を今より5cm広げることも脳への良い刺激になるようです。
認知症は、現状を理解し上手に付き合っていくことも大切なことです。ご家族や周囲の寄り添う気持ちが認知症の進行に影響する部分も大きいようです。
専門家や漢方の助けを借りるなど、無理をしない介護も必要です。
認知症に関する漢方薬のご相談は漢方専門の薬局でされることをお勧めいたします。