男性のお悩み
最近、不妊の原因として「卵子の老化」だけでなく、「精子の老化」も注目されています。
“不妊は女性の問題”と認識されていた時代もありましたが、不妊で悩むカップルの約半数は男性にも原因があるといわれています。
妊娠、つまり精子と卵子が出会い受精するまでに、精子は想像をはるかに超える長旅をします。
約0.05ミリの大きさの精子は、排卵後の卵子が待つ卵管膨大部を目指し、およそ17cmの距離を泳いで行きます。
これは、人間の大きさに換算すると、約6kmの距離を世界記録よりも速いスピードで、しかも、色々な障害物を越えながら1時間程度で泳ぎ切るという過酷な旅です。
それだけに運動率のよい、元気な精子でなければ受精には辿り着きません。
女性の卵子は胎児期に一生分が作られて卵巣に貯蔵されるため、“卵子の年齢=女性の年齢”つまり卵子は加齢とともに数も質も低下します。
一方、男性の精子は、思春期以降から精巣で毎日作られるため、年を取っても精子自体は常に新しいものです。
しかし、老化によって引き起こされる酸化ストレスが原因で、精子の染色体を構成するDNAの損傷が増加し不妊を引き起こすことが最近明らかになっています。
精子も加齢とともに“老化”するメカニズムです。
男性不妊を疑う場合、まずは精液検査を受けて精子の状態を把握します。一般には、2010年に改定されたWHOの基準値(自然に妊娠が可能な基準値の下限)を参考にします。
検査項目 下限基準値
精液量 1.5ml以上
精子濃度 1500万/ml以上
総精子数 3900万/射精以上
前進運動率 32%以上
総運動率 40%以上
正常精子形態率(厳密な検査法で) 4%以上
白血球数 100万/ml未満
精液検査は、体調などにより変動が大きい検査のため、少なくとも1か月に2回以上の検査結果より判断することが望ましいです。
上記の基準値を下回る場合には自然妊娠受精しづらいことが多く、さらに超音波検査やホルモン検査などをする場合もあります。(病院によって基準値が若干異なる場合もあります)
精子おもな男性不妊の原因として
があります。
男性不妊の原因の約90%が造精機能障害です。精子をつくり出す機能自体に問題があり、精子をうまくつくれない状態です。精子の数が少ない場合や運動性に乏しい場合、卵管にたどり着く精子が少なく、不妊の原因になります。
造精機能障害では、精子の状態により以下の4つに分けられます。
原因の多くは、原因不明(突発性造精機能不全:50%以上)か精索静脈瘤(30%以上)です。精索静脈瘤は、精巣(睾丸)に血液が逆流して精巣の静脈血管がこぶ状に腫れる症状で、『乏精子症』や『精子運動率の低下』、『二人目不妊』をもたらし、精子の老化の大きな原因になっています。
その他の稀な原因として、
・高プロラクチン血症
・ムンプス精巣炎(おたふく風邪と同じムンプスウイルスによる)
・精巣捻転症
・停留精巣
・染色体異常(クラインフェルター症候群)
・その他(放射線・重金属・ダイオキシン・温熱など)
などがあります。
精子を外に射出する精管が生まれつきや、感染症による炎症、鼠径ヘルニアの手術などによって狭くなったり詰まってしまった状態で、『閉塞性無精子症』の原因となります。男性不妊の5~10%にみられます。
勃起障害(ED)や射精障害、性欲の低下などがあります。
勃起障害は、勃起に必要な十分血液が送り込まれない血管性のものや、ストレスなど心因性のもの、加齢、生活習慣病(糖尿病、心臓病、高血圧、高脂血症など)、喫煙、薬の影響によるものが多く、神経系の障害や手術、外傷などで起こることもあります。
造精機能に問題はないけれど、感染による炎症や免疫反応により精子の機能が落ちて、受精まで至らない状態です。前立腺炎や精巣上体炎など生殖器に炎症が起こると精子の運動率が低下し受精しにくくなります。クラミジアなどの性感染症や抗精子抗体(自分の精子を攻撃する自己抗体)などで起こります。
日本では男性不妊は泌尿器科の分類ですが、中国では「中医男科」といい、男性不妊やEDなどを専門に診る科が存在しています。
漢方では、性機能や生殖能力の根源は『腎』にあると考えます。そして、生殖の精(腎精)は、加齢によって自然に減少しますが、そのスピードには個人差があります。
男性不妊の大部分は、この腎精が過度に不足した『腎虚』が原因で、さらに『肝』、『心』、『脾胃』の乱れなどの原因が絡んでいることもよくみられます。腎虚には腎陽虚と腎陰虚の2つのタイプがあります。
生殖機能(性欲)の減退、体力の衰えを感じる、冷え、視力の低下、物忘れ、歯が弱い、耳鳴り、集中力の低下、抜け毛や白髪が多くなってきた、腰や膝が痛む、力がはいりにくいなどの症状が生じやすくなるのが特徴です。
男性不妊の症状としては、性欲減退や勃起不全、精子運動率の低下、乏精子症などがみられます。
漢方薬では、からだを温め、「腎」を強化する海馬補腎丸や参馬補腎丸、八味地黄丸などを用いいることが多いです。
長期にわたるストレスや過労・老化、過度のセックスなどによって体内に余分な熱が生まれ、体全体の潤いが無くなっている状態です。
寝汗や手足のほてり、口の渇き、便秘、暑がりなどの症状が生じやすくなります。男性不妊の症状としては、精液量が少ない、精子死亡率が高い、射精不全、持続性勃起などがみられます。
漢方薬では、瀉火補腎丸、杞菊地黄丸、六味地黄丸、二至丹などを用いることが多いです。
精神的ストレスやプレッシャーが多いと、精神が疲労し、自律神経のバランスが崩れ、ホルモン分泌や生殖機能に影響が出てきます。
漢方では、このような状態を『気滞(きたい)』といい、イライラや憂鬱、怒りっぽいなど情緒が不安定になったり、便秘、睡眠の質がよくない、肩こりや頭痛など様々な症状を起こします。
気滞が長く続くと、血の流れが良くない『血瘀(けつお)』の状態になりやすく、陰部の血流も悪化しやすくなり、精索静脈瘤の原因にもなります。
男性不妊の症状としては、性欲の減退やインポテンツ、閉塞性無精子症、乏精子症、精索静脈瘤、精管の詰まりなどがみられます。
漢方薬では、気血を整え巡らせる血府逐瘀丸、冠元顆粒、水快宝などを用います。
その他、体内の水と熱が停滞した湿熱(しつねつ)や栄養となる血の不足した心脾両虚(しんぴりょうきょ)が男性不妊の原因となることもあります。
精子は熱に非常に弱いため、普段から精子を作る精巣を温め過ぎないことが大切です。
きつめの下着やズボンなども下半身を圧迫させたり蒸れる恐れがあるため、できるだけ涼しい環境を作ることが大切です。
喫煙者は非喫煙者に比べ、精子量が10~17%減少、精子の運動量低下、異常な形の精子の出現などという結果が報告されています。また、受動喫煙と不妊との関係も指摘されています。
冷たいビールや水割りなどを大量に飲むと、「湿(余分な水分)」が体内に溜まり、精子の活動が低下することが考えられます。
また、男性は、肝臓以外に精巣にもアルコールを分解する酵素があります。飲酒後、アルコールが分解される際に毒性の高いアセトアルデヒドができて、これが精巣内で増えてしまい精子を作る力を下げてしまいます。
過度の飲酒は生殖能力に影響するといわれている亜鉛の吸収を妨げるともいわれています。
睡眠不足が続いたり、質の良い睡眠がとれていないと、男性もホルモンの分泌が悪くなり不妊の原因になります。
また、中医学では、『夜』=『陰』の時間。陰が最も深まる時間帯が夜中の0時にあたります。夜中の0時には横になってからだを休めていないと、陰が消耗し、「陰不足」の状態が続くと不妊に繋がります。少なくとも、日付が変わる前までには就寝し、十分な陰を補っておくことが重要です。
その他、野菜多めの食事内容や肥満の予防(BMIが高いほど正常な精子数や精子量が少なかったという実験結果もあるようです)、電磁波(膝の上でノートパソコンを作業する)を避ける、適度にストレス解消するなど、日々の生活の中でも精子によい環境をつくってあげることが妊娠への第一歩となります。
漢方を上手に活用して体質改善からはじめてみてはいかがでしょうか??まずはご相談ください。